Machidoki Vol.30
中原 恵人 吉川市長

吉川で始めよう
「ちょうどいい」暮らし
レイクタウンとららぽーとの狭間のまち。
中原恵人吉川市長は、そう冗談めかして笑う。
埼玉県民でも吉川市がどこにあるのか知らない人もいる。
だが——。
都心のほとんどの主要駅まで60分以内。
高速道路のインターチェンジも近い。
広大な水田が広がり、自然の恵みがすぐそばに。
ほどよく都会で、ほどよく田舎、しっかり便利。
知名度と住みやすさは、必ずしも比例しない。
知れば知るほど、住みたくなる。
そう思わせてくれる魅力が、吉川市にはある。
子どもたちの未来を見つめて
吉川市がめざす
持続可能なまちづくり
子育て、教育、まちづくり。
どの施策にも一貫しているのは、今だけでなく、未来も見据える視点。
不登校の子どもたちと向き合ってきた日々を原点に、
10年余にわたって市政の舵取りを担ってきた中原恵人吉川市長。
持続可能なまちを将来世代へと引き継ぐという目標はまだ道半ばだが、
実現に向けたその歩みは実に力強い。
- 原点は子どもたちを通して見た社会の課題
大学時代から不登校やひきこもりの子どもたちを支援する活動に取り組んできました。一軒家を借り、家にも学校にも居場所がないような子どもを迎え入れ、一緒に暮らしながら社会復帰まで支援する。どれほど苦しみを抱えていても、心の奥底には「生きたい」という思いが必ずあり、それを引き出すことに心を砕きながら子どもたちと向き合ってきました。
私たちが1年間に支援できるのはせいぜい30人ほど。一方で、不登校や困難を抱えている子どもは全国に何十万人もいます。出口の対応だけではとても追いつきません。入口を整える、すなわち子どもたちが苦しまずにすむ社会をつくらなければ、本質的な解決は望めません。未熟な制度や支援体制を変えるには政治しかない。その思いが出発点でした。
- 目に見える数字より、実感できる幸せを
数字を追い求めない。私たちが大切にするまちづくりの理念です。
職員にはずっと、「市民が実感できるものをめざそう」と伝えてきました。住みよさランキングの順位や人口の増加よりも、いま暮らしている人たちがどれだけ幸せを感じられるか。それが何より大切だと考えています。
幸福実感は数値化できず、目に見える形で示しづらいものです。それでも行政と市民の距離が近くなった実感はあります。「意見が市に届く」「よい提案をすれば実現する」と感じてくれる市民は増えつつあります。子どもの頃、市長と小中学生がまちづくりについて意見交換を行うランチミーティングに参加したことが、市の職員として働くきっかけになった若者がいます。「市長室でアイデアを話したい」と学生からメールをもらう機会も増えました。
もちろん、これらの変化は私一人の力によるものではありません。誠実に市民と向き合ってくれている職員の力があってこそ。そうやく職員も、市民との距離が縮まったことを実感していると思います。
- 「志」を成し遂げる力を育む
学校教育におけるICT活用が叫ばれる中、吉川市はすぐにタブレットの導入に踏み切りませんでした。教育の理念を明確にするのが先だと考えたからです。そして、次のような教育大綱を定めました。
「家族を 郷土を愛し 志を立て 凛として生きてゆく」
この一文で、特に重視しているのが「志」という言葉です。私は子どもたちに「夢とは違う」と話しています。「裕福になりたいから歌手をめざす」のは夢。「誰かを元気づけるため歌手をめざす」のが志です。夢は自分のための願いですが、志は社会や他者に向けた意志や理想を伴います。
志を成し遂げるためには、リーダーシップやプレゼンテーションスキルといった数値化できない力、いわゆる非認知能力が欠かせません。吉川市では、非認知能力の育成に活用するツールとして、タブレットを導入しました。市内の小中学校では、子どもたちが自ら課題を発見し、解決していく学習に力を入れています。企業の協力を得てプレゼンテーション大会なども開いています。
提案を実行に移す、という経験も重要だと考えています。
例えば先日のランチミーティングで、中学生から「農業をもっとPRしたほうがよい」との提案がありました。「自分たちでやってみな」と伝えたところ、彼らは農家を訪問し、動画の制作に取り組んでいます。完成した動画は、市役所や市の公式YouTubeチャンネルで公開する予定です。
自らの提案で市に貢献する体験は、郷土愛や自己肯定感を育む貴重な機会になります。成長した子どもたちが吉川に定住したい、あるいは市外に出ても「また戻ってきたい」と感じる原体験にもなるのではないでしょうか。
- 子どもたちの未来に責任を持つという視点
子育て支援というと、無償化や補助が注目されがちです。もちろんそれによって助かる家庭があることは理解しています。ただ、そうした経済対応だけで少子化という根本的な課題を解決できるのか、私は疑問を感じています。
吉川市では給食費の無償化を行っていません。年間約8億円のうち、5億円は公費で、残りの3億円を保護者にご負担いただいています。もし無償化すれば、この3億円も税金で賄う必要がありますが、その財源があれば、公園に新しい遊具を設置したり、校舎や体育館の空調整備にも活用できます。
より多くの子どもたちに恩恵のある環境整備に充てたほうが、意義があると考えています。
新型コロナ以降、休止していた屋外市民プールの廃止も決定しました。跡地には人工芝と屋根、照明を備えた全天候型の運動広場を整備する考えです。夏季限定で維持費も高額なプールより、年間通して多世代が使える施設のほうが、今と将来の子どもたちにとって持続的で有益と判断しました。
賛否があることは理解しています。ただ、このような判断において最も重要なのは「子どもたちの未来に責任を持つ」という視点ではないでしょうか。将来に負担を残さず、持続可能なまちを引き継ぐことが自分たちの責任だと認識しています。
- 吉川駅と吉川美南駅を中心としたまちづくり
吉川市には2つの駅があります。吉川駅はJR武蔵野線の開業時に設置された駅で、周辺には市の発展を支えてきてくれた方々が多く住まれています。一方の吉川美南駅は、2012年に開業した新しい駅。土地区画整理事業が完了した西口には、新しい住宅街が広がっています。
どちらのエリアも同じ熱量で駅前のリニューアルや開発を進めていく、というのが基本方針です。吉川駅では今後2年半ほどかけて、北口駅前広場の改修工事を進め、歩道のバリアフリー化を図り、屋根を設け、ベビーカー利用者や障がい者も安心して行き来できる環境を整えます。送迎用の駐車場も設ける計画です。
吉川美南駅では東口の区画整理が本格化します。すでに大型商業施設の工事が始まり、企業の進出や公園の整備計画なども進んでいます。まちづくりにあたっては、子どもたちの視点も取り入れました。区域内の公園には子どもたちが考えた遊具を設置し、発案者の名前も刻む予定です。こうした経験もまた、郷土愛を育むことにつながると考えています。
- 都会と田舎のちょうどいいバランス
2011年に県議会議員に当選したとき、先輩議員に「吉川市ってどこにあるの?」と聞かれました。市の認知度は今も大きく変わっていないと思います。それでも少し前まで一貫して人口が増加していました。
どこに魅力があるのか。職員から決まって聞かれるのが「ほどよい」という言葉です。
約7万2000人という人口は、県内市町村の中で多くもなければ少なくもない。市域も南北8km、東西4kmほど。土地も平坦で全域を自転車で回れます。駅を中心にコンパクトに市街地が形成され、その周りには、田畑など豊かな自然が広がります。15分ほどの距離にイオンレイクタウンやららぽーと新三郷があります。市内に同規模の大型施設はありませんが、そのぶん住環境は静かで落ち着きがあります。
これといった特徴がないように見えて、実は身近に何でもある。暮らしの中で、そうした実感を得られるところが、吉川市の一番の魅力だと思っています。
プロフィール
中原 恵人 Nakahara Shigeto
1970年、千葉県出身。筑波大学卒。不登校やひきこもりの青少年支援に取り組むNPO法人での活動などを経て、2011年に埼玉県県議会議員。2015年より現職。2男1女の父親。ブログによる積極的な情報発信に加え、絵本作家の一面も。野球やバイク、バンド活動など趣味も幅広い。


